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即興

誰が言っていたか忘れたし、正確な言い回しも忘れたが、
「ジャズの即興演奏は、繰り返しや定型的な形式を否定するものではなく、むしろその上に成り立っている」
というような言葉を聞いたことがある。
即興演奏というもっとも先鋭的な部分が、単純なコード進行や冗長な繰り返し、使いまわしの手癖フレーズなどによって成立するというのは逆説的な話しだ。

「裸のランチ」という映画はバロウズの小説を元に制作されている。
と言っても原作の難解な筋書きを映像化することは断念し、その雰囲気だけを取り入れて、ストーリーの大筋はバロウズの半生記を描いている。

害虫駆除の仕事をしているウィリアム・リー(つまりこれがバロウズ)は、妻が殺虫剤を麻薬として使っていることに気づく。
彼女に誘われるままウィリアムも殺虫剤を試してみる。
その幻覚の中で…現実と幻覚の区別は曖昧でどこからどこまでが薬物による幻覚なのか区別がつけ難い描き方なのだが…ウィリアムは警察から事情聴取を受ける。
取調室で待たされていると、タイプライターぐらいのデカさの巨大なゴキブリが現れて、スパイとしてウィリアムを雇うという、そして妻を殺し、レポートを提出せよと言う。

この話は、薬物に溺れたバロウズが妻と拳銃でウィリアム・テルごっこをして、誤って殺害したことが下敷きになっている。
バロウズはそれを作品に書き、作家となった。
「裸のランチ」は、薬中の幻覚のなかで指令を受けたウィリアムがウィリアム・テルごっこをして妻を殺害し、それを「レポート」するまでを描く。
不快な出来事を追体験しなければ「レポート」できない。
苦痛をともなった体験を自身の中で再現して見せる作家魂を、クローネンバーグ監督がグロテスクでエロティックな幻覚表現をもちいて描いている。

音楽にはオーネット・コールマンのサックスがフューチャーされている。
オープニングのタイトルクレジットも、結構好きなんです。
色のついた四角が流れてきて、交差する。そこに文字が浮かんで見えるだけなのですが、格好いいんですよ。

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